中電・関電合作の「核のゴミ捨て場」にするな!
反戦情報 №469 2023.10.15
上関町議会で「中間貯蔵施設」建設調査の受け入れを表明する西町長(8月18日)
<巻頭言>
●「労働者階級の反乱」
前号に続き、今回もブレイディみかこの著作だ。テーマは結構、刺激的な内容だ。副題は――地べたから見た英国EU離脱(2017年10月20日初版、同19年11月25日第3刷発行、光文社新書)。
著者も言う通り、「家族も知り合いもいない異国の地に一人でやってきて」仕事を見つけ、結婚、出産し育児をしたりして生活している彼女を、いざというときに助けてくれたのは近所の人々や配偶者の友人たちなどで、非常に寛容で多様性に慣れた人たちだった。配偶者と共に住んでいるところはイギリス南部のブライトンという、生粋の労働者の町で、あまりガラがよくない典型的な英国の古い公営住宅。
ところが、2016年6月24日、EU離脱投票で「離脱派」の勝利が伝えられた瞬間、かれら英国労働者階級の人々は、世界中から「不寛容な排外主義者」に認定されてしまった。投票結果分析で、英国人労働者階級の多くが離脱票を投じ、彼らこそがブレグジット(EUからの英国離脱)のけん引力だったことが判明したからである。
それまで大まかには同じような政治的主張を持っていた、みかこ夫婦は初めて真逆の投票行動をとっていたこともわかり、夫は自ら離脱票を投じたくせに、テレビをみて「オー・マイ・ゴッド!」と叫び、みかこも「えらいこっちゃ」と内心でうなったのだった。事実、この問題で意見が食い違い、大喧嘩をして離婚にいたった夫婦も幾組もいたのだ。
そこまでではないが、あまり利害関係が直に響かない人々にとっては、「信じられない」「排外に走った愚かな人々」と、上から目線で遠くから罵倒しておけば済んだのだろうが、「家庭内外で彼らと生活している人間」にとっては、そうはいかない。これからも彼らと一緒に生きていくからだ。
そんなわけで「よく理解できない事柄に出会ったときに人類がせねばならないことを、いまこそわたしもしなければならない」とおもった著者が、まず行ったこと、それは「勉強」である。
著者の問題意識がよく表れているのが、「英国の労働者階級はなぜEU離脱票を投じたのか」――、「そもそも彼らはどういう人々なのか」――、「彼らはいま本当に政治の鍵を握るクラスになっているのか」――、「どのような歴史を辿って現在の労働者が形成されているのか」――という疑問であり、「学習することはたくさんあった」のである。
著者はいう。「この本は、その学習の記録である」と。そうであるからには、筆者を含めた、みかこの「読者」もまた、真剣に、イギリス労働者階級のこの100年間の闘争と挫折の歴史を、まじめに勉強しなければならないだろう。
続けて著者はいう。「まったく個人的な学習記録ではあるが、ロイヤルファミリーやアフタヌーン・ティーの階級についてはよく知られていても、日本にはほとんど伝えれられていない階級の人々の現状や、主流派とは違うもう一つの英国の歴史について、祖国の皆さんに関心を持っていただけるきっかけになればと願っている」。
本書は3部からなり、第Ⅰ部「地べたから見たブレグジットの『その後』」、第Ⅱ部「労働者階級とはどんな人たちなのか」、第Ⅲ部「英国労働者階級の100年――歴史の中に現在が見える」である。
実は、筆者自身、ブレグジットについては、当初、表面的な事象しか知っておらず、「イギリス人はなぜ、面倒くさい国境の復活を許したのか」という程度の疑問しかなかった。しかし著者はもっと深く、歴史的な理由を掘り下げてくれている。ぜひご一読を。(N)